
ティアフォー(593A)が自動運転AI半導体を自前設計|NVIDIA一強を崩す「ソフト定義チップ」戦略
自動運転ソフトウェアのティアフォー(593A)が、ついに半導体の「中身」まで自ら設計し始めます。
2026年9月14日の日本経済新聞で、加藤真平社長は自動運転向けAI半導体について「NVIDIA一強」の構図を崩す考えを示しました。
ただし、ここでいう「半導体を自前開発」を、ティアフォーがTSMCのような工場を建て、自社ブランドのGPUを大量生産する計画だと理解すると本質を外します。
ティアフォーが取り組むのは、自動運転AIに必要な演算だけを効率良く処理するAIアクセラレーターの論理設計です。さらに設計資産やコンパイラなどのツールチェーンをオープンソース化し、複数の半導体メーカーがその設計をSoCへ組み込めるエコシステムを目指しています。
つまり狙っているのは「第2のNVIDIAになること」より、「自動運転ソフトウェア側が半導体の構造を定義すること」です。
ティアフォーには、そのための武器があります。世界的なオープンソース自動運転ソフトウェア「Autoware」と、車両から集まる走行データ、E2E型自動運転AI、そして実際の自動運転車両です。
ソフトウェアが必要とする計算だけをハードウェアへ落とし込めれば、あらゆるAI処理に対応する巨大GPUより、消費電力・コスト・遅延を抑えられる可能性があります。
しかもティアフォーはNVIDIAと対立しているわけではありません。2026年3月にはNVIDIAのVLAモデル「Alpamayo」や世界基盤モデル「Cosmos」との協業を強化し、8月にはルネサスの次世代R-CarへAutowareを実装する協業も始めました。
「NVIDIAを使いながら、NVIDIAへの依存を減らす」。この一見矛盾した戦略こそ、ティアフォーが掲げる「自動運転の民主化」の半導体版です。
この記事では、ティアフォーが何を設計するのか、なぜGPUでは足りないのか、ルネサスとの協業と矛盾しない理由、そして赤字企業の半導体投資が本当に株主価値へ変わる条件まで整理します。
- ティアフォー(593A)が自動運転AI半導体を自前設計|NVIDIA一強を崩す「ソフト定義チップ」戦略
- ティアフォーが開発するのは「自動運転専用AIアクセラレーター」
- なぜNVIDIAのGPUだけでは不十分なのか
- 「ソフト定義半導体」とは何か|半導体を先に作る順番を逆転
- JSTが狙うのも「巨大な単一脳」から分散型チップへの転換
- ティアフォーはすでにLiDARアクセラレーターを開発してきた
- NVIDIAと競争しながらNVIDIAとも協業する理由
- ルネサスとの協業とも矛盾しない|半導体メーカーを「増やす」戦略
- Autowareの「ハードウェア非依存」が半導体事業の土台になる
- 半導体設計をオープンソース化してどう稼ぐのか
- ティアフォーは売上85億円規模で100億円超の営業赤字
- NVIDIA一強を崩せても、ティアフォーがNVIDIA並みに儲かるわけではない
- 半導体までオープンにするとAutowareのネットワーク効果が強くなる
- 最大の競争優位候補は「ソフトと実車の両方を持つこと」
- ティアフォー半導体戦略が崩れる5つの条件
- 次に確認したい7つのKPI
- まとめ|ティアフォーが狙うのは「日本版NVIDIA」ではなくNVIDIAを選ばなくてもいい世界
- 主な参考資料
ティアフォーが開発するのは「自動運転専用AIアクセラレーター」
ティアフォーは2026年8月、JSTの「次世代エッジAI半導体研究開発事業」への参画を明らかにしました。
東京大学の川原圭博教授を研究開発代表者とする「ユースケース駆動による機能分化型フィジカルAIチップ設計」という研究です。
JST資料では、東京大学、ティアフォー、慶應義塾大学などが参加します。
ティアフォーが担当する中心課題は、自動運転のE2E AI推論処理を効率化するAIチップの論理設計です。
さらに重要なのが、設計した回路だけを自社内に閉じないことです。
ティアフォーは、AIチップの設計資産に加え、コンパイラなど関連ツールチェーンまでオープンソース化する構想を示しています。
それによって、さまざまな半導体メーカーがAutoware向けAIアクセラレーターをSoCへ組み込みやすくする狙いです。
「自社半導体工場を持つ」という話ではない
ここは投資家が最初に切り分けたい点です。
ティアフォーが現時点で公表しているのは半導体の「設計」です。
シリコンウエハーへ回路を形成する製造工場を建設する計画は確認できません。
設計したIPを半導体メーカーのSoCへ組み込み、実際の製造はファウンドリーなどが担う形が想定されます。
つまりティアフォーの競争力候補は製造能力ではなく、「自動運転AIを最も効率良く動かせる回路をソフトウェア側から設計できること」です。
なぜNVIDIAのGPUだけでは不十分なのか
NVIDIAの強みは、GPUという高性能なハードウェアだけではありません。
CUDAをはじめとする開発環境、AIモデル、シミュレーション、ツール群まで一体化した巨大なエコシステムを持っています。
そのため自動運転でもNVIDIA DRIVEを採用すれば、高性能AI処理を比較的短期間で実装できます。
一方、自動車にはデータセンターと異なる制約があります。
- 限られた電力で動作する必要がある
- 発熱を抑える必要がある
- リアルタイム応答が必要
- 大量生産車では部品コストが重要
- 10年以上の長期供給が求められる
- 機能安全や故障時の制御が必要
特にEVでは、自動運転コンピューターが消費する電力もバッテリーから供給されます。
演算性能を上げるために何百ワットも消費すれば、航続距離や冷却設備へ影響します。
あらゆるAI処理に対応する汎用GPUより、自動運転で頻繁に使う演算だけを専用回路へ移した方が、ワット当たり性能を高められる可能性があります。
これがAIアクセラレーターの意味です。
ティアフォーが狙うのは、単純な「NVIDIAよりTOPSが高い半導体」ではありません。
AutowareとE2E自動運転AIが実際に必要とする処理に合わせ、無駄な計算を減らすことです。
「ソフト定義半導体」とは何か|半導体を先に作る順番を逆転
従来の半導体開発では、半導体メーカーがSoCを設計し、その上でソフトウェア企業がプログラムを最適化する流れが一般的でした。
ティアフォーが提唱する考え方は、その順番を逆にします。
まずAutowareやE2E AIなど、実際に自動運転車を動かすソフトウェアがあります。
そこで何の演算に時間がかかるのか、どの処理で電力を使うのか、どのデータを低遅延で処理する必要があるのかを測ります。
その結果から必要なハードウェアを逆算します。
これが加藤社長のいう「半導体設計もソフト定義型」という考え方です。
SDVの次は「Software Defined Semiconductor」
SDVでは、クルマの機能をハードウェアだけで固定せず、ソフトウェアによって更新・進化させます。
ティアフォーはさらに一段下へ降り、ソフトウェアの要求から半導体アーキテクチャーそのものを決めようとしています。
例えばE2E型自動運転では、カメラ映像などの入力から認識、判断、経路生成までニューラルネットワークで一体的に処理します。
AIモデルが変化すれば、最適な演算回路も変わります。
ハードウェアを完全固定するのではなく、必要機能だけをチップレットやアクセラレーターとして組み替えられれば、自動運転AIの進化へ追随しやすくなります。
これがティアフォーの半導体戦略の中心です。
JSTが狙うのも「巨大な単一脳」から分散型チップへの転換
JSTの研究資料は、この考え方をさらに分かりやすく説明しています。
研究テーマは「巨大な単一脳」から「分散する神経系」への転換です。
フィジカルAIの処理を大きく3つへ分けます。
- 高次行動層:複雑な判断や計画
- 反射行動層:超低遅延で即応する処理
- 末梢神経系:センサーなど物理世界との接続
人間でも、熱いものへ触れた時にすべての情報を脳でじっくり解析してから手を引くわけではありません。
脊髄反射のように、簡単だが時間が重要な処理は末端に近い場所で行います。
自動運転でも同じです。
複雑な道路状況を考えるAIと、障害物を検知して即座に反応する処理を、すべて同じ巨大GPUで行う必要があるのかという問いがあります。
用途別に小さなアクセラレーターへ分ければ、必要な回路だけを必要な瞬間に使い、消費電力と遅延を削減できる可能性があります。
ティアフォーの半導体開発は、単なる企業独自プロジェクトではなく、日本の次世代エッジAI半導体政策とも方向が一致しています。
ティアフォーはすでにLiDARアクセラレーターを開発してきた
ティアフォーが突然半導体会社へ転身するわけではありません。
同社は以前から、LiDARの3次元点群処理などを高速化するハードウェアアクセラレーターの研究を進めています。
2026年にはベルギーimecの「Automotive Chiplet Program」へ参加しました。
狙いは、SDV向けチップレットアーキテクチャーとAIアクセラレーターの研究を量産・商用化へ近づけることです。
自動運転ではLiDAR、カメラ、レーダーから大量のデータが入ります。
例えばLiDARの点群処理をCPUやGPUだけで行うより、その処理に特化した回路へ任せられれば遅延と消費電力を下げられます。
この経験をE2E AIへ広げようとしています。
今後のポイントは、研究用アクセラレーターから、車載品質・量産価格・長期供給を満たす半導体IPへ進めるかです。
半導体研究で性能を出すことと、自動車メーカーが年間数十万台で採用できることは別のハードルです。
NVIDIAと競争しながらNVIDIAとも協業する理由
今回の「NVIDIA一強を崩す」という発言だけを見ると、ティアフォーがNVIDIAとの関係を解消するようにも見えます。
実際は逆です。
2026年3月、ティアフォーはNVIDIAとの協業強化を発表しました。
NVIDIAのリーズニング型VLAモデル「Alpamayo」や世界基盤モデル「Cosmos」をAutoware、Co-MLOpsへ取り込んでいます。
Automotive World 2026でも、ティアフォーのリファレンスE2E AIモデルをNVIDIA Jetson Orin上で動作させています。
つまり現時点でNVIDIAは重要なパートナーです。
競争するのは「NVIDIAを使うかどうか」ではなく依存度
ティアフォーが変えたいのは、NVIDIA製ハードウェアしか選択肢がない状態です。
Autowareはもともと、幅広いECU・センサー・SoC上で動作できるオープンな設計を強みとしています。
NVIDIAを使いたい顧客はNVIDIAを使える。
消費電力やコストを優先する顧客はルネサスなど別SoCを使える。
さらに将来はティアフォーが設計したAIアクセラレーターIPを複数のSoCベンダーが実装できる。
この「選べる状態」を作ることがNVIDIA一強を崩すという意味に近いと考えられます。
ティアフォーにとって重要なのはNVIDIAを倒すことではありません。
Autowareを使う顧客が、半導体ベンダーに縛られない状態を作ることです。
ルネサスとの協業とも矛盾しない|半導体メーカーを「増やす」戦略
ティアフォーは2026年8月20日、ルネサスエレクトロニクス(6723)ともSDV向けコンピューティングプラットフォームで協業しました。
AutowareとE2E型自動運転AIを、ルネサスの次世代R-Car Gen 5上へ実装・最適化します。
GoldenEggsではこの協業を「ルネサス(6723)×ティアフォー(593A)自動運転で協業|3nm R-CarとAutowareがレベル4量産を近づける理由」で分析しました。
今回の自前半導体開発は、このルネサス協業を否定するものではありません。
むしろルネサスを含む複数の半導体メーカーが、ティアフォーのAIアクセラレーターやAutowareへ対応できるようにする戦略と見る方が整合的です。
例えばルネサスのCPU・GPU・安全機能へティアフォー設計の専用AIアクセラレーターを組み合わせることも、技術的な方向性としては考えられます。
ただし、具体的にR-Carへ今回のJST研究成果を搭載する契約が公表されたわけではありません。
現時点では可能性と正式契約を分けて考える必要があります。
Autowareの「ハードウェア非依存」が半導体事業の土台になる
ティアフォーが半導体設計へ進める理由の1つがAutowareです。
AutowareはLinuxとROSを基盤とするオープンソース自動運転ソフトウェアで、幅広い車両・センサー・ECUで動作することを設計思想としています。
2026年3月に公開したAIベースのレベル4向けソフトウェアスタックも、複数のSoCやセンサー構成へ適応できるハードウェア非依存型を強調しています。
この特徴は半導体市場で重要です。
もしAutowareがNVIDIA専用なら、ティアフォーが独自アクセラレーターを作っても移行する顧客は限られます。
しかし最初から複数ハードウェアで動く設計なら、顧客が用途ごとにSoCを選べます。
そこで共通して必要になる自動運転AI処理だけを、ティアフォーがIP化できる可能性があります。
ソフトウェアの普及が先にあり、その普及基盤を使ってハードウェアIPへ降りていく。
これは一般的な半導体スタートアップとは逆方向の参入です。
半導体設計をオープンソース化してどう稼ぐのか
投資家が最も疑問を持つのはここでしょう。
せっかく半導体を設計しても、設計資産をオープンソースにしたら収益にならないように見えます。
Autowareにも同じ構造があります。
Autoware自体はオープンソースですが、ティアフォーはその周囲で自動運転プラットフォーム、開発サービス、車載カメラ、DevOps、運行支援などを提供しています。
半導体でも同様に、オープンな設計が普及すれば、その周囲に商用サービスを作れる可能性があります。
例えば将来的には次のような収益経路が考えられます。
- 量産SoCへの設計・最適化支援
- Autowareとの統合・検証サービス
- 車載AIモデルの最適化
- 評価ボード・開発キット
- コンパイラや商用ツールのサポート
- 自動車メーカー向け量産開発サービス
ただし、これらが今回正式に発表された料金モデルという意味ではありません。
現時点では、半導体設計の研究成果がどの商用製品へ入り、ティアフォーがどの形で対価を得るのかは未確定です。
「オープン化で普及を取り、周辺サービスで収益化する」というAutoware型のモデルを半導体へ再現できるかが今後の焦点です。
ティアフォーは売上85億円規模で100億円超の営業赤字
技術的な期待と、現在の財務状況は分けて考える必要があります。
ティアフォーは現在、研究開発を先行させる赤字企業です。
2026年9月期第2四半期累計では売上高43.69億円となった一方、研究開発費や人員増加の負担が続きました。
会社は自動運転AIだけでなく、車載カメラ、Co-MLOps、チップレット、AIアクセラレーターなど複数領域へ先行投資しています。
上場時の会社計画では2026年9月期の売上高約84.84億円に対し、営業損失は約112.39億円を見込んでいます。
つまり現時点では、年間売上高より営業赤字額の方が大きい投資フェーズです。
今回の半導体開発も短期利益を増やす施策ではありません。
研究開発負担をさらに増やす可能性があります。
補助金と商業利益を区別する
ティアフォーは国の自動運転・AI半導体研究開発プロジェクトにも複数参画しています。
これは研究を進める資金面では大きな強みです。
一方、政府から得る補助金・委託収入と、量産車を顧客へ販売して得る継続利益は別物です。
投資家が確認すべきなのは、「国策として採択されたか」だけではありません。
研究成果が自動車メーカーや半導体メーカーの量産契約へ変わったかです。
NVIDIA一強を崩せても、ティアフォーがNVIDIA並みに儲かるわけではない
「NVIDIA一強を崩す」という言葉は非常に強い見出しになります。
しかし株式投資では、市場シェアの変化と企業利益を分ける必要があります。
仮に自動車メーカーがNVIDIA DRIVE以外のSoCを採用する割合が増えたとしても、その売上がすべてティアフォーへ入るわけではありません。
SoCを製造・販売するのはルネサスなどの半導体メーカーになる可能性があります。
ティアフォーへ入るのはソフトウェア、AI、IP、統合支援などの対価になると考えられます。
さらに設計IPをオープンソース化するなら、直接ライセンス料を最大化するモデルとも異なります。
したがって「NVIDIAの市場を奪う=ティアフォーの売上が同額増える」という計算はできません。
ティアフォーの投資論点は、NVIDIAの代替GPUメーカーになることではありません。
自動運転の標準ソフトと標準AIアクセラレーター設計を握り、その周辺で継続的な商用収益を作れるかです。
半導体までオープンにするとAutowareのネットワーク効果が強くなる
ティアフォーの長期戦略を考えるうえで面白いのが、ソフトとハードの両方をオープン化することです。
Autowareへ対応する半導体メーカーが増えれば、自動車メーカーは選択肢を増やせます。
選択肢が増えればAutowareを採用するハードルが下がります。
Autoware採用車が増えれば、走行データ・開発者・対応センサー・開発ツールも増えます。
その結果、さらに半導体メーカーが対応する動機が生まれます。
理想的には次の循環です。
- Autoware利用者が増える
- 対応するSoCが増える
- 自動車メーカーの選択肢が増える
- Autoware採用がさらに増える
- AIモデル・データ・開発ツールが増える
- プラットフォーム価値が高まる
これはWindowsとPCメーカー、Androidとスマートフォンメーカーに見られたようなプラットフォーム型の発想です。
ただし自動車は安全性と認証要求が高く、PCのように簡単に部品を交換できません。
ネットワーク効果が本当に成立するかは、量産採用まで確認する必要があります。
最大の競争優位候補は「ソフトと実車の両方を持つこと」
半導体設計企業が自動運転AIのベンチマークを見ながら専用回路を作ることはできます。
ティアフォーが違うのは、自分たちでAutowareを開発し、実際の自動運転車両を運行していることです。
実車を使えば、次のデータを確認できます。
- どのAI処理が最も時間を使うのか
- どの場面で遅延が安全性へ影響するのか
- AIモデル更新で演算特性がどう変わるか
- 必要メモリー量はどれほどか
- 消費電力・発熱が車両へどう影響するか
机上のベンチマークではなく、現実の走行データを半導体設計へ戻せます。
そして新しい半導体設計を再びAutowareへ実装して実車で検証できます。
この「ソフト→実車→データ→チップ→ソフト」というループを持つことが、ティアフォーの半導体開発で最も興味深い競争優位候補です。
うまく機能すれば、ハードとソフトを別会社が独立して開発するより改善速度を上げられる可能性があります。
ティアフォー半導体戦略が崩れる5つの条件
1.専用チップの性能差が小さい
最大の技術リスクです。
NVIDIAやルネサスの汎用AIエンジンで十分な性能・電力効率を実現できるなら、専用アクセラレーターを追加する経済合理性は小さくなります。
2.AIモデルの進化が速すぎて専用回路が陳腐化する
専用ASICは特定演算に強い一方、アルゴリズムが大きく変わると使いにくくなる可能性があります。
E2E AIの構造変化へどこまで柔軟に対応できる設計にするかが重要です。
3.オープンソース化しても半導体メーカーが採用しない
設計を公開するだけではエコシステムは生まれません。
ルネサスなど複数の半導体メーカーが実際に量産SoCへ組み込む必要があります。
4.開発費だけ増え商用収益が生まれない
ティアフォーはすでに大幅な営業赤字を計上する研究開発フェーズです。
半導体開発まで広げた結果、赤字と資金消費だけが長期化する可能性があります。
5.自動車メーカーがNVIDIAの統合環境を選び続ける
NVIDIAの強みはGPU性能だけではありません。
AIモデル、シミュレーション、開発ツール、サポートまで含む巨大なエコシステムです。
多少ハードウェア効率が良くても、開発期間全体ではNVIDIAを選ぶ方が安いという判断が残る可能性があります。
次に確認したい7つのKPI
1.AIアクセラレーターの実チップ動作
論理設計から、FPGA、試作チップ、車載SoCへ進むかが最初の重要な技術マイルストーンです。
2.消費電力当たりAI性能
NVIDIA等との差別化を判断する核心です。
単純なTOPSではなく、TOPS/Wや実際のAutoware処理時間を確認したいところです。
3.採用する半導体メーカー数
1社だけなら専用共同開発です。
複数メーカーがティアフォー設計IPへ対応すれば、オープンエコシステム戦略が成立し始めます。
4.量産車へのデザインイン
最も重要な商業KPIです。
研究用デモではなく、自動車メーカーが量産車へ採用することが必要です。
5.半導体関連の商用売上
設計支援、IP、開発キット、最適化サービスなど、どの収益モデルが生まれるかを確認します。
6.研究開発費と営業キャッシュフロー
自動運転車両とAIに加え、半導体まで研究対象が広がっています。
売上成長に対し資金消費がどのペースで続くかは上場企業として重要です。
7.Autoware搭載車両数
最終的にはここです。
半導体設計の価値はAutowareの量産台数が増えるほど大きくなります。
ソフトウェア、AI、半導体を同じプラットフォームとして何台へ展開できるかを追います。
まとめ|ティアフォーが狙うのは「日本版NVIDIA」ではなくNVIDIAを選ばなくてもいい世界
ティアフォーは、自動運転レベル4向けのAIアクセラレーターを自ら論理設計し、その設計資産やツールチェーンをオープンソース化する研究開発を進めています。
加藤真平社長は、自動運転AI半導体で事実上のNVIDIA一強となっている市場構造を変える考えを示しました。
しかし今回の記事から得られる重要な理解は、「ティアフォーがNVIDIAと同じGPUを作る」という話ではないことです。
ティアフォーが狙っているのは、AutowareとE2E自動運転AIが必要とする演算をソフトウェア側から分析し、その処理に適した専用ハードウェアを定義することです。
JSTの研究でも、巨大な汎用GPUだけに処理を集めるのではなく、複雑な判断、即応処理、センサー接続などを機能ごとの小さなチップへ分ける構想が示されています。
ここから得られる新しい理解は2つあります。
1つ目は、「NVIDIA一強を崩す」ことがNVIDIAを排除することではない点です。
ティアフォー自身、NVIDIA AlpamayoやCosmosをAutoware開発へ積極的に利用しています。
同時にルネサスのR-Carとも協業しています。
顧客がNVIDIA、ルネサス、将来の別SoCを用途に応じて選び、そのどれでもAutowareを動かせることが「自動運転の民主化」につながります。
2つ目は、ティアフォーの本当の競争優位候補が半導体設計技術単体ではなく、Autoware、E2E AI、走行データ、実車という一連の開発ループにある点です。
ソフトを作り、実車で走らせ、どこがボトルネックかを測り、その処理を半導体へ落とし込み、再び実車で検証できます。
このループを高速に回せるなら、半導体メーカー単独とは異なるチップ設計が生まれる可能性があります。
一方、投資家は技術的な夢だけで評価してはいけません。
ティアフォーは現在、売上約85億円規模に対して100億円を超える営業赤字を見込む先行投資企業です。
半導体研究まで広げれば、研究開発負担はさらに大きくなる可能性があります。
今回の戦略が株主価値へ変わったと判断できるのは、「NVIDIAに勝つ」と宣言した時でも、試作チップが動いた時でもありません。
ティアフォー設計のAIアクセラレーターが複数の半導体メーカーの量産SoCへ入り、そのSoCを自動車メーカーが採用し、ティアフォーに継続的な商用収益が発生した時です。
筆者が今後最も注目したいのは、半導体そのもののスペックではありません。
何社の半導体メーカーがその設計を使い、何台の量産車へAutowareと一緒に搭載されるかです。
もしその構造を作れれば、ティアフォーは自動運転ソフトウェア企業から「ソフトが半導体まで定義する車載コンピューティングプラットフォーム企業」へ進化します。
ティアフォーが目指すのは日本版NVIDIAになることではありません。
NVIDIAしか選べなかった自動運転市場に、複数の半導体を選べるオープンな選択肢を作ること。
その方がAutowareを世界標準へ広げるという同社の戦略には、むしろ一貫していると考えます。
主な参考資料
- 日本経済新聞「ティアフォー加藤真平社長『自動運転半導体、NVIDIAの1強崩す』」2026年9月14日
- 科学技術振興機構「次世代エッジAI半導体研究開発事業 課題一覧」
- JST「ユースケース駆動による機能分化型フィジカルAIチップ設計」
- ティアフォー「JST『次世代エッジAI半導体研究開発事業』に参画」2026年8月14日
- ティアフォー「imecのAutomotive Chiplet Programに加盟」2026年
- ティアフォー「AIベース型自動運転レベル4を公開」2026年3月16日
- ティアフォー「NVIDIAのVLAモデルと世界基盤モデルを用いてAIベース型自動運転レベル4を加速」2026年3月19日
- ティアフォー「Autoware」
- ティアフォー「2026年9月期 第2四半期(中間期)決算短信」
- ルネサス「R-Car 車載向けSoC」
- GoldenEggs「ルネサス(6723)×ティアフォー(593A)自動運転で協業|3nm R-CarとAutowareがレベル4量産を近づける理由」
あくまで個人的な見解であり、投資を勧めるものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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